
糖尿病と診断されたばかりの方や、これから薬物治療を始める方の中には、「本当に薬が必要なの?」「副作用が出たらどうしよう」と不安を抱く方も少なくありません。
糖尿病の治療薬には、血糖値を下げるためのさまざまな種類があり、それぞれ作用の仕組みや特徴、副作用も異なります。
正しく理解することで、不安を減らし、納得して治療に取り組むことができます。
この記事では、糖尿病治療薬の主な種類や効果、副作用、インスリン注射との違い、薬の選び方まで、医師監修のもと、わかりやすく解説します。
糖尿病の薬はなぜ必要?治療の目的と薬の役割
糖尿病の治療薬は、血糖値を適切にコントロールし、将来起こりうる重篤な合併症を防ぐために非常に重要な役割を果たします。
血糖値が高い状態が続いても、初期には自覚症状がほとんどないことが多いですが、放置すると血管や臓器が徐々に傷つき、以下のような深刻な合併症を引き起こすリスクが高まります。
- 心筋梗塞
- 脳梗塞
- 失明
- 人工透析
- 足の切断
これらの合併症は、健康寿命を大きく縮める原因にもなります。
糖尿病の治療薬は、食事療法や運動療法と併せて用いることで、血糖値を目標範囲に保ち、重い合併症の発症や進行を防ぐ役割を担います。
ただし、診断されたからといって、すぐに薬を使い始めるとは限りません。治療のスタートラインは、血糖コントロールの状態によって異なります。
診断時の状態を把握するためによく使われるのが、「HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)」という指標です。このHbA1cの値に基づいて、薬物療法の要否や治療方針が決まっていきます。
HbA1cの値による治療の目安
HbA1cの目安 | 一般的な対応(例) |
---|---|
7.0%以下 | まずは生活習慣の改善。維持できれば薬を使わないこともあります。 |
7.0-8.0% | 生活習慣の見直しを中心に行い、必要に応じて薬物療法を検討します。 |
8.0%以上 | 薬物療法を開始し、血糖値が安定すれば休薬を検討することもあります。 |
※HbA1cは、過去1〜2か月の血糖値の平均を示す指標です。一般に、数値が高いほど血糖コントロールが不十分と判断されます。
このように、糖尿病治療薬は合併症を防ぐための大切な手段であり、患者さん一人ひとりの状態に合わせて慎重に選ばれます。
糖尿病の薬の種類とその働き

糖尿病の治療では、血糖値をコントロールするためにさまざまな薬が使われます。中でも多くの方が最初に使うのが「飲み薬(経口薬)」です(注射薬については後ほどご紹介します)。
こうした薬はすべて「血糖値を下げる」という共通の目的を持っています。 ではそもそも、血糖値を下げるしくみとはどのようなものなのでしょうか?
血糖値を下げるホルモン「インスリン」
インスリンは、すい臓から分泌されるホルモンで、血液中のブドウ糖(血糖)を体の細胞に取り込ませることで、血糖値を下げる働きをします。
糖尿病では、このインスリンが「足りない」あるいは「うまく働かない」状態になっており、薬によってその働きを助けたり補ったりする必要があります。
その上で、糖尿病の飲み薬には、主に次の3つの仕組みで血糖値を下げる作用があります。
(1) インスリンの分泌を促す薬
膵臓に働きかけてインスリンの分泌を促し、血糖値を下げます。
代表的な薬
- SU薬(スルホニル尿素薬):強力にインスリン分泌を促します
- 速効型インスリン分泌促進薬(グリニド系):食後の急激な血糖上昇を抑えます
- DPP-4阻害薬:インクレチンというホルモンの作用を高め、食後のインスリン分泌を助けます
- GLP-1受容体作動薬:食欲を抑える作用もあり、血糖と体重の両方に働きかけます
- グリミン系:SU薬と似た作用を持ちます
(2) インスリンの効果を高める薬(インスリン抵抗性の改善)
身体のインスリンに対する反応(感受性)を高め、効率的に血糖を下げられるようにします。
代表的な薬
- ビグアナイド薬(例:メトホルミン):肝臓での糖の産生を抑え、インスリン抵抗性を改善します
- チアゾリジン薬:脂肪組織などでインスリンの効きを高めます
- グリミン系:インスリンに対する感受性を高める作用を持ちます
(3) 糖の吸収や排泄に作用する薬
食事で摂った糖の吸収をゆるやかにしたり、尿から余分な糖を排出したりすることで血糖値を下げます。これらは、インスリンを使わずに血糖をコントロールするタイプの薬です。
代表的な薬
- α-グルコシダーゼ阻害薬:腸での糖の分解・吸収を遅らせます
- SGLT2阻害薬:腎臓で再吸収される糖を尿として排出させます
これらの薬は単独で使われることもありますが、作用の異なる薬を組み合わせて使うことで、より効果的な血糖コントロールが可能になります。
複数の有効成分を1錠にまとめた「配合薬」もあり、飲み忘れの防止や服薬負担の軽減を目的に使われることもあります。
飲み薬と注射薬の違い|使い分けの目安は?

糖尿病の薬は大きく分けると「飲み薬」と「注射薬」の2種類に分類されます。どちらの薬が適しているかは、血糖値の状態、インスリンの分泌機能、合併症の有無などを踏まえて、医師が患者さんごとに判断します。
ここでは、それぞれの特徴や作用の違いを整理し、どのようなケースで使い分けられるのかをわかりやすく解説します。
飲み薬(経口血糖降下薬)
- 投与方法:口から服用します。
- 作用の仕組み:インスリンの分泌を促す、効きをよくする、糖の吸収や排泄を調整するなど、複数のタイプがあります。
- 使われるケース:主に2型糖尿病の初期や軽症の方に使われます。状態に応じて複数の薬を組み合わせることもあります。
注射薬(インスリン注射・GLP-1受容体作動薬など)
- 投与方法:皮下に注射します。医師の指導を受ければ、自宅での自己注射も可能です。
- 作用の仕組み:不足しているインスリンを補う、または分泌を助ける働きがあります。GLP-1受容体作動薬は、胃の働きを緩やかにする作用も併せ持ちます。
- 使われるケース:1型糖尿病や、飲み薬だけでは血糖値の改善が難しい2型糖尿病の方に使われます。
薬はどうやって決まる?糖尿病の薬の選び方

糖尿病の治療薬は、すべての人に同じ薬が処方されるわけではありません。一人ひとりの体の状態や生活スタイルに応じて、医師が慎重に薬を選んでいきます。
こうした「オーダーメード診療(個別化治療)」が、糖尿病治療ではとても重要です。
主な判断ポイント
- 診断時の血糖値やHbA1c
血糖コントロールの緊急性や治療の目標値に大きく関係します。 - 罹病期間(病気の経過)
糖尿病は進行性のため、発症からの期間によって選択する薬が異なることもあります。 - 合併症の有無
心臓病や腎臓病などの持病がある場合、それに配慮した薬が選ばれます。 - 年齢やライフスタイル
高齢の方や、夜勤のある職業の方には、服薬管理がしやすい薬が選ばれることがあります。 - 費用や副作用のリスク
経済的な事情や、薬への反応(副作用の出やすさ)も選択の重要な要素です。
さらに、患者さん自身の「治療への思い」や「家庭環境」なども薬の選択に影響します。医師は最新の治療ガイドラインに加え、長年の診療経験も踏まえて、その人にとって最善の選択肢を提案してくれます。
どんな小さな疑問でも、相談することで治療の質が大きく変わることもあります。迷ったときは、遠慮なく医師に相談してみましょう。
副作用や低血糖に注意|糖尿病の薬の使い方

糖尿病の薬は正しく使えば強力な味方ですが、使い方を誤ると低血糖や副作用といったリスクを伴うこともあります。ここでは、安心して治療を続けるために知っておきたい注意点を解説します。
低血糖とは?症状と対処法
特にSU薬(スルホニル尿素薬)やインスリン注射を使っている方は、低血糖に注意が必要です。低血糖になると、次のような症状が現れることがあります。
- 発汗(変な汗がでてきた)
- 動悸(急激なドキドキ感)
- 振戦(手が震える)
- 強い空腹感(とくかくお腹がすく感じ)
- 意識障害(うとうとして反応が鈍い)
これらの症状を感じたら、すぐに糖分を補給しましょう。なお、α-グルコシダーゼ阻害薬(αGI)を服用している場合は、ブドウ糖がより効果的です。食事の抜き・遅れ、激しい運動、飲酒も低血糖の原因になるため注意しましょう。
シックデイとは?体調不良時の注意点
風邪や胃腸炎などで食事がとれないと、血糖値の管理が難しくなることがあります。これを「シックデイ」と呼びます。あらかじめ医師と「シックデイルール」を相談しておくと、体調不良時にも安心して対応できます。
体調不良時に一時的に中止されることが多い薬
- ビグアナイド薬(例:メトホルミン)
- SGLT2阻害薬
- SU剤
- グリニド系薬
このような場合は、安静にしながら、水分や炭水化物をしっかり摂り、体温や症状をこまめに観察しましょう。
薬の副作用と正しい対処法
薬によっては、消化器症状、むくみ、発疹、体重増加などの副作用が現れることもあります。不安な症状が出たときは、自己判断せず、必ず医師や薬剤師に相談してください。
飲み合わせ(薬の相互作用)に注意
糖尿病の薬は、他の薬やサプリメントとの相互作用によって、効果が強く出たり弱まったりすることがあります。通院時には、服用しているすべての薬や健康食品を正確に伝えることが大切です。
定期的な受診・検査の重要性
血糖値のチェックに加えて、肝機能・腎機能・体重なども定期的に確認し、薬の効果や副作用を早期に発見することが大切です。
糖尿病治療は「継続」が鍵。小さな体調の変化や疑問でも、早めに相談することが、安心・安全な治療の第一歩になります。
糖尿病の薬に関するよくある質問
Q1. 薬を飲み始めたら、一生やめられないのでしょうか?
A1.いいえ、必ずしもそうとは限りません。糖尿病の治療目標が達成され、良好な血糖コントロールが続いている場合、医師の判断で薬の減量や中止が検討されることもあります。
ただし、自己判断で薬をやめるのは非常に危険です。体調や検査結果を見ながら、医師と相談のうえで進めることが大切です。
Q2.薬で体重は増えますか?減りますか?
A2.薬の種類によって、体重への影響は異なります。以下は、主な糖尿病治療薬と体重への影響の目安です。
薬の種類 | 体重への影響(一般的な傾向) |
---|---|
SU薬 | 増加しやすい |
速効型インスリン分泌促進薬(グリニド系) | 増加しやすい |
ビグアナイド薬 | 増加しにくい、または体重減少の傾向 |
SGLT2阻害薬 | 減少しやすい |
DPP-4阻害薬 | ほとんど体重に影響しない |
Q3.サプリや風邪薬と一緒に飲んでも大丈夫ですか?
A3.糖尿病の薬は、他の薬やサプリメントとの飲み合わせ(相互作用)によって、効果が強まりすぎたり、逆に弱まったりすることがあります。中には、低血糖などの副作用リスクが高まる組み合わせもあります。
とくに、解熱鎮痛剤・風邪薬・漢方薬・栄養ドリンク・サプリメントなどは注意が必要です。自己判断で併用せず、新しく何かを飲む前には、必ず医師または薬剤師に相談しましょう。
Q4. 薬を飲んでいれば、食事や運動に気をつけなくてもいいですか?
A4.いいえ。糖尿病治療の基本は、食事療法・運動療法・薬物療法の3本柱です。薬はあくまで生活習慣の改善をサポートするもの。3つをバランスよく組み合わせることで、血糖値をより安定させることができます。
食事療法について詳しく知りたい方は、こちらの記事も参考にしてください。
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まとめ:糖尿病の薬と上手に付き合うために
糖尿病の薬は、食事療法や運動療法と組み合わせて行うのが基本です。
薬によっては、低血糖や消化器症状などの副作用が出ることもあるため、正しく使い、体調の変化には早めに気づくことが大切です。
「今の薬、本当に自分に合っているのかな?」
「市販薬やサプリとの飲み合わせ、大丈夫だろうか?」
そんな不安を感じたときは、一人で抱え込まず、医師や薬剤師に相談しましょう。近くに相談できる医療機関がない場合でも、糖尿病に詳しい医師に自宅から相談できる「オンライン診療」という選択肢もあります。
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