
健康診断における血液検査で、「血中脂質」の数値異常を指摘されるケースが増加しています。自覚症状が乏しいため経過観察にとどめる患者様も少なくありませんが、医学的な観点からは、血管内皮の障害と動脈硬化の進行を防ぐための早期からの評価・介入が推奨されます。
本記事では、血中脂質の異常が引き起こす病態生理と、臨床データに基づく食事・運動療法の有効性、そして生活習慣の修正だけではコントロール困難な事例に対する薬物治療の適応について解説します。
血中脂質異常と動脈硬化のリスクファクター
「血中脂質」とは、血液中に存在する脂質の総称であり、主にLDLコレステロール(悪玉)、HDLコレステロール(善玉)、中性脂肪(トリグリセライド)のバランスによって評価されます。これらは細胞膜の構成やホルモン合成に必要不可欠な成分ですが、その代謝バランスが崩れることで「脂質異常症」を発症します。
血管病変の進行プロセス
血中の過剰な脂質は、血管壁に沈着してプラーク(隆起性病変)を形成します。これが「動脈硬化」の始まりです。 この状態が進行・放置されると、血管内腔の狭窄や血流不全を招き、プラークの破綻によって血栓が形成されることで、心筋梗塞や脳梗塞といった致死的な血管イベントを引き起こすリスクが段階的に高まっていきます。
特に留意すべきは、これらの病態が「無症状」のまま進行することです。自覚症状が出現した時点では、すでに進行しているケースが少なくありませんので、健康診断による早期発見と、数値に基づいたリスク管理が極めて重要となります。
臨床傾向から見る「食事療法」の有効性と実践
多くの患者様において、まずは生活習慣の修正、特に食事療法が第一選択となります。 実際の診療現場におけるデータや傾向分析によると、適切な食事介入を行った患者群の多くの症例において、一定の数値改善効果が確認されています。
1. 脂質代謝を改善する食品群
数値の改善が見られた症例において、共通して積極的に摂取されている食品群があります。
- n-3系多価不飽和脂肪酸(青魚) サバやイワシなどの青魚に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)は、肝臓での中性脂肪の合成を抑制し、血液中の中性脂肪を低下させる作用が医学的に認められています。週3回以上の摂取を継続している群では、高い改善率が報告されています。
- 大豆製品(納豆・豆腐) 大豆イソフラボンや植物性タンパク質は、血中コレステロールの酸化を防ぎ、代謝を促進する効果が期待されます。
- 食物繊維の積極摂取 野菜、海藻、きのこ類に含まれる食物繊維は、腸管内でのコレステロール吸収を阻害し、胆汁酸としての排泄を促進します。
2. 制限すべき食品と食習慣
一方で、動物性脂肪(飽和脂肪酸)の過剰摂取はLDLコレステロール値を上昇させる直接的な要因となります。 肉の脂身、鶏皮、バター、およびトランス脂肪酸を含む加工食品や揚げ物の摂取頻度が高い場合、数値の改善は困難となります。アルコールや糖質の過剰摂取も中性脂肪の合成を促進するため、適正量への制限が必要です。
有酸素運動による脂質代謝への影響
運動療法は、食事療法と並ぶ脂質管理の柱です。 特に中性脂肪の高値や、HDLコレステロール(善玉)の低値が見られる場合、運動による改善効果が顕著に現れる傾向があります。
- 有酸素運動の推奨 ウォーキングやジョギングといった有酸素運動は、筋肉でのリポタンパク質リパーゼ(LPL)の活性を高め、中性脂肪の分解を促進します。臨床的には、継続的なウォーキングを行っている患者群において、多くの症例で改善が認められる傾向にあります。
- 運動強度の目安 「ややきつい」と感じる程度(中強度)の運動を、1日30分以上、週3回以上行うことが推奨されます。継続的な運動刺激は、基礎代謝の向上やインスリン抵抗性の改善にも寄与し、全身の代謝環境を整えます。
生活習慣改善の限界と「体質・遺伝」の関与
食事や運動の指導を徹底しても、LDLコレステロール値などが目標範囲まで低下しない症例が一定数存在します(約3割程度)。 これは患者様の努力不足ではなく、生体メカニズム上の「限界」や「遺伝的背景」に起因するケースが多く見受けられます。
体内合成と肝臓の機能
血中のコレステロールの大部分(約70〜80%)は、食事由来ではなく、体内の糖や脂肪を原料として肝臓で合成されたものです。 したがって、食事からのコレステロール摂取をゼロに近づけたとしても、肝臓での合成機能が亢進している場合や、血液中からの回収能力が低下している場合、血中脂質値は高止まりします。
家族性高コレステロール血症(FH)
遺伝的にLDLコレステロールが高くなりやすい体質を「家族性高コレステロール血症」と呼びます。
- 両親や近親者に高コレステロール血症の人がいる
- 若年期から数値が高い
- アキレス腱が肥厚している
これらの特徴に当てはまる場合、遺伝子変異によりLDL受容体の機能が低下している可能性があり、生活習慣の改善のみでは十分なコントロールが難しい場合がありますので、このようなケースでは、早期からの薬物治療介入が必須となります。
薬物治療の適応とリスク管理
生活習慣の改善を行っても数値が改善しない場合、あるいは動脈硬化のリスク(高血圧、糖尿病、喫煙歴、家族歴など)が重複している場合は、薬物治療の適応となります。
主な治療薬とその作用機序
- スタチン系薬剤 肝臓でのコレステロール合成酵素を阻害することで、強力にLDLコレステロールを低下させます。大規模な臨床試験において、心筋梗塞や脳梗塞の発症予防効果が確立されています。
- フィブラート系薬剤 主に肝臓での中性脂肪の合成を抑え、分解を促進します。中性脂肪が高値の症例に適応されます。
- エゼチミブ 小腸からのコレステロール吸収を阻害する薬剤です。スタチンとの併用で用いられることもあります。
副作用と服薬継続の重要性
一部の薬剤では、筋肉痛や肝機能障害といった副作用が現れる可能性がありますが、その発現頻度は高くありません。定期的な血液検査によって肝機能や筋肉の酵素(CK)を確認しながら投与することで、安全に継続することが可能です。 自己判断による服薬中断は、リバウンドによる急激な数値悪化や血管イベントの誘発(リバウンド現象)を招く恐れがあるため、必ず医師の管理下でコントロールを行うことが重要です。
個別化医療による最適な脂質管理を
血中脂質の管理において重要なことは、一律の対策ではなく、個々の患者様の「リスク因子」や「病態」に合わせたアプローチを選択することです。
- 生活習慣の改善(食事・運動)をベースとする。
- 遺伝的素因や代謝異常の程度を評価する。
- 必要に応じて薬物治療を組み合わせ、動脈硬化の進行を確実に防ぐ。
「数値が高い」という事実を軽視せず、循環器内科や代謝内科などの専門機関を受診し、ご自身の血管の状態やリスクに応じた適切な治療方針を決定することが、健康寿命の延伸につながります。

