「運動は健康に良い」とはよく言われますが、実際に糖尿病・高血圧・脂質異常症といった生活習慣病を改善するには、どのような運動が有効なのでしょうか?
一般的に運動は大きく「有酸素運動(ウォーキングやジョギングなど)」と「筋力トレーニング(筋トレ)」の2つに分けられます。どちらも健康に効果的ですが、生活習慣病の改善においてはそれぞれ異なる役割があります。
本記事では、有酸素運動と筋トレの違いを整理しながら、実際にどう取り入れるべきかを科学的なエビデンスを踏まえて解説します。

有酸素運動の効果 ― 血糖・血圧・脂質を整える
糖尿病への効果
有酸素運動は、筋肉を動かし続けることでエネルギー源として糖を利用し、血糖値を下げる作用があります。
米国糖尿病学会(ADA)は、週150分以上の中等度の有酸素運動を推奨しており、これはウォーキングなら1日30分を週5日行う程度です【1】。
高血圧への効果
有酸素運動は血管の柔軟性を高め、血圧を下げる効果があります。メタ解析では、中強度の有酸素運動を週3回以上行うと、収縮期血圧が平均5〜7mmHg低下することが示されています【2】。
脂質異常症への効果
脂肪燃焼効果があるため、内臓脂肪を減らし、中性脂肪の低下やHDL(善玉コレステロール)の増加につながります【3】。
筋トレの効果 ― 基礎代謝とインスリン感受性を高める
糖尿病への効果
筋肉は「糖を貯蔵できる臓器」です。筋肉量が増えることで、糖の取り込み能力が向上し、インスリン抵抗性が改善されます。
研究では、週2〜3回の筋トレでHbA1cが有意に低下することが報告されています【4】。
高血圧への効果
一時的に血圧は上昇するものの、長期的には血管内皮機能が改善され、安静時の血圧低下につながります。特に軽〜中等度の負荷での全身運動が推奨されます【5】。
脂質異常症への効果
筋肉量が増えることで基礎代謝が上がり、脂肪燃焼効率が高まります。さらに筋トレ後にはエネルギー消費がしばらく続く「アフターバーン効果」も期待できます【6】。
有酸素運動と筋トレ、どちらを優先すべきか?
結論から言うと、両方を組み合わせるのが最も効果的です。
ハーバード大学の研究では、有酸素運動と筋トレを併用した人が、どちらか単独よりも生活習慣病の改善効果が高いことが示されています【7】。
実践的な組み合わせ
- 週5日、有酸素運動(30分のウォーキング)
- 週2〜3日、筋トレ(スクワット・腕立て・腹筋など自重運動でOK)
無理なく続けることが最も重要です。
生活に取り入れる工夫
- エレベーターではなく階段を使う(筋トレ+有酸素の要素)
- 通勤で1駅分歩く(有酸素)
- 家でテレビを見ながらスクワット(筋トレ)
- 買い物帰りに荷物を持って歩く(筋トレ+有酸素)
「ジムに行かないといけない」と思うとハードルが上がりますが、日常生活に少しずつ組み込むことで継続しやすくなります。
まとめ
有酸素運動は「血糖・血圧・脂質」を直接的に改善し、筋トレは「筋肉量を増やし基礎代謝を上げる」ことで長期的な効果をもたらします。
どちらが優れているかではなく、両方をバランスよく取り入れることが生活習慣病の改善・予防の近道です。
池尻大橋せらクリニックでも、患者さんに合わせた運動療法の提案を行っています。「どんな運動から始めればいいのか分からない」という方は、ぜひご相談ください。
参考文献
【1】American Diabetes Association. Standards of Medical Care in Diabetes—2024. Diabetes Care. 2024.
【2】Cornelissen VA, Fagard RH. Effects of endurance training on blood pressure: a meta-analysis. Hypertension. 2005.
【3】Kelley GA, Kelley KS. Aerobic exercise and HDL cholesterol: a meta-analysis. Prev Med. 2006.
【4】Strasser B, et al. Resistance training in the treatment of metabolic syndrome: a systematic review and meta-analysis. Sports Med. 2010.
【5】MacDonald HV, et al. Resistance training and blood pressure: a meta-analysis. J Am Heart Assoc. 2016.
【6】Hackney KJ, et al. Afterburn effect of resistance exercise. Eur J Appl Physiol. 2008.
【7】Shiroma EJ, et al. Strength training and aerobic physical activity: combined effects on health outcomes. Med Sci Sports Exerc. 2017.