MASLD(代謝異常関連脂肪性肝疾患)と生活習慣病 ― なぜ同時に起こるのか

2025年09月24日

健康診断で「脂肪肝」と指摘される人は年々増えています。以前は「飲みすぎだから肝臓に脂肪がついたのだろう」と考えられがちでしたが、実際には生活習慣病と深く関わる脂肪肝が非常に多いのです。

近年「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」はMASLD(代謝異常関連脂肪性肝疾患)と呼び方が改訂されました(Eslam et al., 2023)。これは単なる名称変更ではなく、「脂肪肝は生活習慣病の一部である」という考え方が世界的に共有され始めたことを意味します。

この記事では、なぜMASLDと生活習慣病が同時に起こるのか、そのメカニズムと予防のための生活習慣について解説します。

MASLDと生活習慣病の関係

MASLDとは?新しい病名の背景

MASLD(Metabolic dysfunction-Associated Steatotic Liver Disease)は、以下の特徴を持つ疾患です。

  • 肝臓に5%以上の脂肪沈着がある
  • 過剰なアルコールや薬剤によるものではない
  • 糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満など代謝異常を伴う

従来の「NAFLD」は「アルコールを飲んでいないのに脂肪肝がある」という除外診断でしたが、MASLDは生活習慣病を背景に脂肪肝をとらえる積極的な定義へと変わりました(Younossi et al., 2019)。

なぜ生活習慣病と同時に起こるのか?

1. インスリン抵抗性が共通の鍵

糖尿病・高血圧・脂質異常症・脂肪肝に共通するのがインスリン抵抗性です。

インスリンの効きが悪くなると血糖が上がり、余分なブドウ糖が中性脂肪に変わり、肝臓に蓄積します(Targher et al., 2021)。

2. 脂肪組織からの炎症性物質

内臓脂肪が増えると、炎症性サイトカインが分泌され、血管や肝臓に慢性炎症を起こします。これが動脈硬化を進め、生活習慣病と脂肪肝を同時に悪化させます。

3. 心血管疾患のリスク増加

MASLDの患者では心筋梗塞や脳卒中の発症リスクが高いことが知られており、死亡原因の第一位は肝疾患ではなく心血管疾患です(Chalasani et al., 2018)。

放置するとどうなるのか?

MASLDは進行すると「脂肪肝炎(MASH)」に移行し、肝硬変や肝がんに至ることがあります(EASL 2021)。

さらに、糖尿病や高血圧が悪化し、動脈硬化性疾患(心筋梗塞・脳梗塞)のリスクも上昇します。

つまりMASLDは肝臓だけの病気ではなく、全身の生活習慣病の一部なのです。

予防と改善のためにできること

食事療法
  • 白米や甘い飲料など精製糖質を控える
  • 魚・大豆・鶏肉など良質なタンパク質を摂る
  • 野菜や食物繊維を毎食取り入れる

体重の5〜10%を減らすだけでも肝脂肪や炎症が改善することがわかっています(Vilar-Gomez et al., 2015)。

運動療法
  • 有酸素運動(ウォーキングや自転車):週150分以上
  • 筋力トレーニング:週2〜3回
  • 座りっぱなしを減らし、日常の活動量を増やす

運動は脂肪肝の改善に有効であり、糖尿病や高血圧の改善にもつながることが報告されています(Keating et al., 2012)。

睡眠とストレス管理
  • 睡眠不足はインスリン抵抗性を悪化させ、肥満を助長する(Spiegel et al., 1999)
  • ストレス過多は暴飲暴食や飲酒の増加を招く

医療機関での検査とサポート

MASLDは自覚症状が乏しく、血液検査だけでは見逃されることもあります。

  • 血液検査(肝酵素、脂質、血糖)
  • 腹部エコーによる脂肪肝の評価
  • **FibroScan(肝硬度測定)**による線維化の評価

こうした検査を組み合わせて早期に把握することが大切です。

例えば東京都目黒区の池尻大橋せらクリニックでは、内科・生活習慣病診療とリハビリ・運動療法を組み合わせ、脂肪肝と生活習慣病の両面からサポートしています。日常の生活改善と医療サポートを合わせることで、長期的な健康維持が可能になります。

まとめ

MASLD(代謝異常関連脂肪性肝疾患)は、糖尿病・高血圧・脂質異常症といった生活習慣病と同時に起こりやすい病気です。

背景にはインスリン抵抗性や慢性炎症があり、放置すると肝硬変や心血管疾患に進行するリスクがあります。

しかし、食事・運動・睡眠の改善と定期的な検査で予防・進行抑制は可能です。

「脂肪肝だからまだ大丈夫」ではなく、「生活習慣病の一部」として早めに向き合うことが大切です。


参考文献

  1. Eslam M, et al. A new definition for metabolic dysfunction-associated fatty liver disease: An international consensus statement. Lancet Gastroenterol Hepatol. 2023.
  2. Younossi ZM, et al. Global epidemiology of NAFLD-MASLD: prevalence, incidence, and outcomes. Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2019.
  3. Chalasani N, et al. The diagnosis and management of nonalcoholic fatty liver disease: Practice guidance from the AASLD. Hepatology. 2018.
  4. European Association for the Study of the Liver (EASL). EASL Clinical Practice Guidelines on non-alcoholic fatty liver disease. J Hepatol. 2021.
  5. Targher G, et al. Cardiovascular risk in patients with NAFLD/NASH. Nat Rev Cardiol. 2021.
  6. Vilar-Gomez E, et al. Weight loss through lifestyle modification reduces features of NASH. Gastroenterology. 2015.
  7. Keating SE, et al. Exercise and non-alcoholic fatty liver disease: a systematic review and meta-analysis. J Hepatol. 2012.
  8. Spiegel K, et al. Impact of sleep debt on metabolic and endocrine function. Lancet. 1999.

監修医師

世良 泰

世良 泰

資格

日本整形外科学会専門医
日本内科学会認定内科医
公衆衛生学修士
International Olympic Committee Diploma in Sports Medicine
日本スポーツ協会公認スポーツドクター
日本医師会認定健康スポーツ医
日本整形外科学会認定スポーツ医
日本障がい者スポーツ協会公認障がい者スポーツ医
Performance Enhancement Specialist (National Academy of Sports Medicine)
Corrective Exercise Specialist (National Academy of Sports Medicine)
日本医師会認定産業医
ロコモアドバイスドクター

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