糖尿病が引き起こす合併症
糖尿病は、血糖値が高い状態が続く病気です。インスリンの分泌量が減っていたり、インスリンの効きが悪くなったりすることで血糖値が高くなってしまいます。
喉が渇きやすくなったり食べているのに体重が減ったりなどの症状が出ることもありますが、初期症状はほとんどありません。そのため、「血糖値が高い状態で放置しても問題ないのでは?」と考えている方もいるでしょう。
しかし、血糖値が高い状態は知らず知らずのうちに体に大きな負担を与えています。高血糖の影響で血管が次第にボロボロになり、さまざまな影響をもたらしてしまうのです。
代表的な合併症として、網膜症や腎症、神経障害が知られています。糖尿病を治療せず放っておくことにより、透析が必要になったり足を切断したりするケースもあるので注意が必要です。
慢性合併症:細小血管障害
細小血管障害とは、体にある細い血管が障害を受けることです。糖尿病になったからといって、急激に細小血管障害が進むわけではありません。数年から数十年かけてゆっくりと障害が進みます。そのため、ある程度の時間が経たないと合併症を起こしていることに気が付かないことも珍しくありません。細小血管障害としては、網膜症、腎症、神経障害の3つが主に知られています。
網膜症
網膜症とは、網膜にある細い血管が損傷した状態のことです。糖尿病になって数年から数十年かけて発症すると言われています。網膜剥離の原因にもなるため、糖尿病になったら定期的に眼科で眼底検査を受けることが大切です。
神経障害(えそ)
高血糖の状態が続くと、運動神経や知覚神経などに障害が起こります。ものが二重に見える、歩きにくくなる、痛みや寒冷を感じにくくなるなどの症状が代表的です。ケガをしても気が付かず、壊疽を起こして足を切断することもあります。
慢性合併症:大血管障害
大血管障害とは、太い血管が障害を受けることです。高血糖の状態が続くことにより細い血管だけでなく太い血管もダメージを受け、動脈硬化を起こします。
動脈硬化とは、血管の弾力性が低下して詰まりやすくなった状態のことです。血管が詰まることにより、脳梗塞や心筋梗塞、末梢動脈疾患などを起こして体に大きなダメージを与えます。
脳梗塞
脳梗塞とは、脳の血管が詰まって脳細胞が死んでしまう病気です。一度死んでしまった脳細胞が再生することはありません。そのため、脳梗塞を起こすと意識障害や言語障害、視野障害など重大な後遺症が残ることがあります。
心筋梗塞
心臓に酸素や栄養素を運ぶ冠状動脈が詰まって血液が滞り、心筋が死んでしまう病気です。脳細胞と同様に、死んだ心筋が再生することはありません。激しい胸痛を伴い、場合によっては死に至ることもあります。
末梢動脈疾患・足えそ
末梢動脈疾患とは、足の血管に動脈硬化が起こることで発症する病気です。歩くときに足がしびれたり、痛みが出たりします。悪化して潰瘍ができたり壊死を起こしたりすると、足の切断が必要になるケースもあるので注意しなければなりません。
慢性合併症:その他
糖尿病といえば、細小血管障害や大血管障害のように血管が障害を受ける合併症が有名です。しかし、実はほかにも体のさまざまなところに影響を及ぼします。歯周病や感染症、認知症などの原因となることもあるため、日頃からしっかりと血糖コントロールを行い、合併症の予防を行うことが大切です。
歯周病
糖尿病を発症している方は、唾液の分泌量が減少しています。そのため、歯石が付着しやすく、さらに細菌が増殖しやすい環境になっているのです。糖尿病の方は免疫機能が低下していることもあり、歯周病を発症しやすくなっています。
感染症
糖尿病を発症すると、尿路感染症や呼吸器感染症、胆道感染症や皮膚の感染症などあらゆる感染症にかかるリスクが増加します。これは、免疫機能が十分に働かなくなり、体に菌が侵入しやすい状態になっているためです。
認知症
高血糖の状態が長く続くことで、認知症のリスクが上がることが知られています。これは、脳内のインスリン量が減って脳細胞がエネルギーを取り込む働きが低下するためです。また、アルツハイマー病の原因と言われているアミロイドβが蓄積しやすくなるとも考えられています。
急性合併症
急性合併症とは、数年から数十年かけて進行する合併症とは違い、症状が急激に進行するものです。症状が突然出るため、速やかな対処が必要になります。インスリンの作用が極度に不足することが原因です。急性合併症には、大きく分けて糖尿病ケトアシドーシスと高血糖高浸透圧症候群の2つがあります。
糖尿病ケトアシドーシス
1型糖尿病の患者さんに多いもので、意識が急になくなり昏睡状態に陥ります。インスリンの量が極端に減り、体内にある糖分ではなく脂肪がエネルギー源として使われることが原因です。脂肪がエネルギー源として使われるとケトン体が作られて体が酸性に傾き、意識を失います。
高血糖高浸透圧症候群
高齢者で多く見られるもので、高血糖の影響で昏睡状態になります。血糖値が異常に上昇して高度の脱水状態を起こすことが原因です。1型糖尿病よりも2型糖尿病で発症しやすいと言われています。